タイズプレゼンテーション

ピタゴラスの穴 by 雑学界の権威・平林純

著者 平林純
1968年、東京都生まれ。京都大学大学院理学研究科修了。ウェブサイト「hirax.net」主宰。全く役に立ちそうもない雑学的な科学ば かりを日々研究している。著書に「論理的にプレゼンする技術―聴き手の記憶に残る話し方の極意」(サイエンス・アイ新書)など。

鎌倉大仏、十円玉何枚で作れるか!?

鎌倉大仏は10円玉と同じ青銅でできている。

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鎌倉大仏は重さ121トン、銅にスズが溶けた合金で作られています。作られた当時、大仏の表面は金箔で覆われていましたが、今では金箔が張られていた名残がごくわずかに残っているだけで、ほぼ銅の合金だけになっています。

鎌倉大仏を作り上げている合金の比率は、おおよそ銅70%亜鉛20%スズ10%。成分や比率が少し違いますが、オリンピックの銅メダル(銅97%・亜鉛2%・スズ1%)や10円玉銅95%・亜鉛4%・スズ1%)と同じ青銅製です。

青銅の色は、本来、銅メダルや新らしい10円玉のような赤みをおびた光沢を持つ金属色をしています。しかし、時間が経ち酸化すると、青銅の表面は青緑色の錆(緑青)で覆われてしまいます。古い10円玉も緑青に覆われて青緑色になりますが、それと同じように、鎌倉大仏も長く風雨にさらされているうちに、今の青緑色の姿に変化したわけです。

鎌倉大仏を10円玉で作ったら4450万枚=4億4500万円ナリ

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鎌倉大仏が10円玉と同じ青銅でできているなら、それを集めて溶かせば、鎌倉大仏と同じような大仏を作ることもできるかもしれません。一体、何枚あれば鎌倉大仏を作ることができるのでしょうか?

鎌倉大仏は、表面積が約525平方メートル、厚みが約5.5センチメートルの青銅で作られています。青銅の体積を計算すると、面積と高さを掛け合わせて、2890万立方センチメートルとなります。 10円玉(直径23.5ミリメートル、厚み1.5ミリメートル)の体積は、一枚あたり0.65立方センチメートル。ということは、鎌倉大仏の体積2890万立方センチメートルを10円玉の体積0.65立方センチメートルで割ることで、鎌倉大仏を作るのに必要な10円玉の枚数=約4450万枚ということがわかります。

10円玉4450万枚=4億4500万円分集めれば、鎌倉大仏に必要な青銅を準備することができる!のです。といっても、同じ体積の青銅を素材として買えば、約1億3千万円程度で手に入れることができるので、鎌倉大仏を10円玉を集めて作ろうとするのでは、値段的にかなり損をすることになります。

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鎌倉大仏をアルミニウムの1円玉で作ったら、6050万枚=6050万円ナリ!

ちなみに、鎌倉大仏を1円玉で作るなら、6050万枚=6050万円で作ることができます。1円玉の場合は、材料として使われているアルミニウムの値段も約1円。硬貨の値段と材料費がほぼ同じです。そのため、アルミニウムで作る場合は、原材料のアルミニウムを買うのも、1円玉を溶かして作るのも、同じくらいの金額でできるということになります。

鎌倉大仏は中国の硬貨(宋銭)を集めて溶かして作られた?

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高さ11.39メートルの鎌倉大仏は、鎌倉市の長谷にある高徳院というお寺に鎮座しています。鎌倉時代の末期1300年頃に幕府公式にまとめられた歴史書「吾妻鏡(あづみかがみ)」には、1252年8月17日に、大仏の鋳造(熱で溶かした青銅を鋳型に流し込んで形を作り始めること)が始まったと記録されています。

鎌倉大仏で使われている青銅は、科学分析(元素分析や鉛同位体比分析)の結果から、平安後期から鎌倉時代前半頃の中国華中や華南産であることがわかってきています。また、宋時代の銅貨(宋銭)とほぼ同じ組成です。そのため、当時価値が低かった古い宋銭を輸入し集めて溶かすことで、鎌倉大仏は作られたという説があります。古く使われなくなってきていた宋銭は安く輸入することができたので、青銅を材料として輸入するよりも便利だったり安かったりしたため(一円玉の例と同じです)、宋銭を溶かして鎌倉大仏を作ったのだろう、というわけです。

鎌倉大仏に関して書かれた文献はとても少なく、作られた理由やどのように作り上げたかも正確にはわからず「謎」が多い大仏です。10円玉と同じく青銅でできていた古代中国の宋銭で大仏は作られたのでしょうか?

結論!
・鎌倉大仏を10円玉で作ったら4450万枚=4億4500万円!
・青銅製の鎌倉大仏は、青銅の材料費だけなら1億3千万円!
・鎌倉大仏をアルミニウムの1円玉で作ったら、6050万枚=6050万円ナリ!

自由の女神・奈良大仏・鎌倉大仏で「銅メダル何枚作れるか」競技をすると?意外な順位の秘密とは!?

「自由の女神」は昔、銅メダルの色だった!

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「自由の女神」像は、アメリカ合衆国のニューヨーク港にあるリバティ島に立つ銅像です。本来、銅は赤い金色で、銅メダルのような色ですが、鎌倉大仏と同じように海沿いで風雨にさらされているうちに、表面が(銅が酸化して)緑青に覆われて、今の青緑色の姿になっています。
世界一高い銅像は、日本の茨城県牛久市にある牛久大仏(高さ116メートルの青銅仏像)ですが、自由の女神も、右手で掲げたトーチ(たいまつ)まで足下から高さ約46メートルの巨大銅像です。もしも、自由の女神を溶かして銅メダルを作ったら、何個くらいのメダルを作ることができるでしょうか?

自由の女神1体で、銅メダルを5万4400枚分!

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自由の女神は、内側にステンレス製の骨格があり、その外側に純銅の板が貼り付けています。作られた当時は、鉄製の骨格でしたが、1986年に建造100年を記念して行われた修復工事で、骨格をステンレス骨格に交換されました。自由の女神の内部にある骨格の重量は、113.4トン。そして、外側に貼り付けられた銅板は、厚みが約2.4ミリメートル重さ27.2トンです。オリンピックのメダルは、直径60ミリ、厚さ3ミリより大きいことと定められていて、重さはロンドン・オリンピックで約400グラム、リオ・オリンピックで約500グラムの青銅製です。
一枚あたり500グラムのリオ・オリンピックの銅メダルを、27.2トンの自由の女神を溶かして作ったら、

27.2トン/500グラム=5万4400枚

もの銅メダルが手に入ります。膨大な枚数です!

自由の女神より、奈良大仏や鎌倉大仏の方が、銅メダル獲得数はずっと多い!

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ところが、ためしに、奈良や鎌倉の大仏で同じ計算をしてみると、驚くことがわかります。奈良の大仏は、身長14.9メートルで青銅の重さ約250トン。鎌倉の大仏は、身長11.4メートルで重さが約120トン。それぞれ何枚の銅メダルを作ることができるか計算してみると、鎌倉大仏で24万枚、奈良大仏はなんと50万枚!です。自由の女神と比べると、高さが1/3ほどの奈良大仏が自由の女神の10倍もの銅メダルを作ることができ、高さが1/4の鎌倉大仏でさえ5倍もの枚数になるのです。

銅メダル枚数の違いの秘密は、銅・青銅の厚みにあります。自由の女神の場合、銅板の厚みはわずか2.4ミリメートルですが、奈良大仏や鎌倉大仏ではおよそ55ミリメートル程度、意外にもなんと20倍以上の厚みをもっているからです。奈良大仏や鎌倉大仏は、青銅自体が像を支えているため、倒れたり壊れたりしないように、青銅がとても厚くなければいけないのです。

「自由の女神」は、350個のパーツに分解できる!

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「自由の女神」は、内部の鉄骨が像を支え、その周りにとても薄い銅板を貼り付けるという構造である必要がありました。自由の女神は、その姿を彫刻家バルトルディが作り、建築物としての設計を技術者エッフェルが行いました。アメリカ合衆国の独立100周年を記念してフランスがアメリカに贈呈した自由の女神像は、まず1884年にフランスのパリで組む上げられた後に、もう一度約350個のパーツに分解して、船に載せて大西洋を渡り米国へ運ばれて、1886年10月28日に除幕式が行われました。倒れない巨大銅像でありつつも、海を渡り運ぶためには、このような構造である必要があったのです。技術者エッフェルは、自由の女神の設計経験を生かし、パリのエッフェル塔を作り上げることになるのです。

結論!
・自由の女神から作れる銅メダルの数は5万4400枚
・奈良大仏と鎌倉大仏は自由の女神より銅の厚みが5倍〜10倍
・自由の女神は輸送に適した、軽く、分解できる構造になっている